140字のエチュード―VoL.20
5:42 - 2016年5月28日
細波のように静かに引いていく感情。美しい潮騒の音は何処へ消えてしまったのだろう。美しい潮騒の音を思い出す度に僕は泣いてしまう。美しい潮騒の音を僕は無かったことにしてしまいたい。今そう思ったことも無かったことにしてしまいたい。今、僕は何を思えばいいのだろうか。空っぽの心。ロバの耳。
4:39 - 2016年6月5日
薔薇が紫陽花に手を振って散っていく。靴底に付いた花びらはとても赤かった。
11:33 - 2016年6月6日
僕の曲げた腕と 君の伸ばした脚
パズルみたいに嵌ればいい
君の脚から鈍色の力の抜ける時、
僕の腕には確かな重たさが伝わる
感じる余裕のない程の熱や圧力!
どうやら真実は僕の口を塞ぐことで真実であり続けようとしているらしい。
20:21 - 2016年6月11日
雨/迷彩の街/散り散りに消えていく雫/クジラが全部飲んでしまったの/長閑な午後/ご覧の通りの有り様さ/サカナはみんな訳知り顔でクジラの中を泳いでる/ルールに縛られることへの生き甲斐を見出しながら/ラッコはただ単純に楽しくて仕方ないから拍手/雪が見たければ遠くの国へ行けとのことです
22:02 - 2016年6月24日
氷の夏/つゆのあとさき/北風が恋しくて/照り返すアスファルト/トイプードルもぐったり/理解されようと思ったことなんてないもの/のんびりしたいんだけどな/涙がちょちょぎれるわ/私達の望むものは?/わだつみの声に耳を傾けて/手紙は虚空を飛ぶ/葡萄は実るのを待つ/月と向日葵は見つめ合う
22:10 - 2016年7月2日
雨の匂い/今にも泣きそうな空/乱反射する青い光/凛と咲かんとする傘の花/何度でもやり直せばいいんだよ/よだかの星は見えないけれど/何処かできっと輝いているはずさ/百日紅の白い根は、あなたの細くて長い指/糜爛していく甘い思い出/電球の切れかかった部屋/やどかりは新しい家を求めて旅へ
140字のエチュード―VoL.19
6:17 - 2015年7月13日
シルクハットの中から
逃げ出した白い小鳥は
夜空に向かって訴えた
その潔白な逃飛行をー
一瞬ごとに消えていく
絹の道に残された微かな温もりを小鳥は!
信じたくない余りに翼を大きくバタつかせ
健やかに眠る太陽を起こしに行った
1:51 - 2015年8月8日
夕立ちが迸る感情。嘘は次々と弾けていく。黒は白に、白は黒に。虹のデッサンは永久にモノクロを繰り返す。少しずつ磨り減らされていく地層。埋もれたまま光る機縁に恵まれなかった宝石の数々。ずっと探し求めていた物を漸く見つけてしまった人の喜び。ビビッドな煌きの下、虹は時を超えて眠り続ける。
8:03 - 2015年8月15日
誰にも伝わらない詩を独り言ちたくなった夜/累乗されるその度に√で優しく包み込まれる愛とは一体?/何気無い一言が知らぬ間にあなたのことを傷つけていたんだね/根無し草と流木は互いの場所を行ったり来たり/理解されない悲しみを抱えながら二つの生命は異なる道へ/返信不要の片思いを捧げたくて
14:46 - 2015年9月19日
ふくよかな白鳩は
無我夢中で銀杏を啄む
お腹は空いてないけれど
こころを膨らませたくて
8:51 - 2015年9月20日
見える蜻蛉
聴こえる松虫
秋は微睡み
昼夜重ねる
17:10 - 2015年9月21日
遊園地の白馬は
青空の下で
ぐるぐる回る
小さなおしりの温もりと
水色の風に戯れながら
7:17 - 2015年9月22日
天空の崖から
突き落とされた
人体の神秘は
落下するにつれて
肉が削げ骨も外れ
臓器も破裂したのに
まだ何かを隠している
心の残像と余韻を
氷雨に託していた
22:16 - 2015年9月22日
氷雨の涙は紐解かれた
珠数の様に飛び散って
晩夏を知らす花火と共に
冷たく熱く空をつたった
4:35 - 2015年9月29日
無数の瞳に
丸い月
檸檬色の小魚が
夜の海に散る
透明な
水槽を越えて
16:02 - 2015年10月26日
秋雨の波紋の描く年輪をばしゃばしゃと踏みはしゃぐ児
7:33 - 2015年11月2日
繭の空から絹の雨
melancholicな心は白く清らかに
俄かに街には静謐な午後が訪れた
揺蕩う蚕は雪の様
麗らかな春をあてもなく目指して
手首の包帯に潜む寒紅に誘われた
7:07 - 2015年12月26日
藍色の閃きが
満月に反射して
暗がりを裂いた
4:37 - 2016年1月22日
月に雪
霞草舞う
寒さかな
3:30 - 2016年1月25日
光の隠れ家へ行きたくて
仔犬は氷面を駆けまわる
冷たさと痛みの塗られた
小さな足は燃えている
凍った手綱は 力強く
駆ける炎に引っ張られて
僕の右手も 肘も 肩も
融けかけた弓矢のよう
17:22 - 2016年2月10日
月の光/竜胆の悲しみ/三毛猫の恋/厭に静かな夜/涙腺が緩んで、雨/メタファーの真意は霧の中/傘を閉じて、目を凝らしても何も見えない/祈りの指先に点る蛍を頼りに、前へ/変光星は僕らに幾つもの可能性を示す/透き影を追い求めて、蒸気のようにゆっくりと昇っていこう/薄雲が風に流れる星月夜
140字のエチュード―VoL.18
4:11 - 2015年5月31日
蜂鳥はダリアの周りで何度も口ずさむ
またやってみな またやってみなって
蜜の滴る花弁は 風に何度も祈りながら
散り際の美を繰り返そうと 己れの万華鏡の内側で
感謝と裏切りに揺れた・震えた・そして飛んだ!
幾つかの花弁は水面へ
幾つかの花弁は山肌へ
そうして蜂鳥に摘まれた 最後で最初の一枚は
何度でも帰ることになるだろう
その生まれ故郷へと―
その、生の重なりへ―
5:05 - 2015年5月31日
どうやらこの人にとって詩を書くことは、かの人にとって酒を飲むことや煙草を吸うのと殆ど同じことらしい。もっと言えば食べることや寝ること、そして小さな死を迎えることと同じことらしい。だから先に断っておきますが、この人はもう詩ぬことをやめられません。かわいそうなんだってね
7:25 - 2015年6月7日
聞いてください
わたしは何故か
信じています
この世界のあらゆる闇は
カカオ100%のチヨコレイトが
誰の口にも入ることなく
マークアウトされたことで
生まれたものだとー
7:11 - 2015年6月21日
夜風が涼しい 命の灯火は ゆらゆら 爛熟した幼心は闇に溶けて きみに照らされるのをじっと待つ 月の光は柔らかくて 雨音もドビュッシー 信じられない人の心を そっと宥める自然の声は 幾つもの失われた感情を取り戻すために 庭に咲く一輪の花をぼくは絶対に摘みたくない
6:01 - 2015年6月24日
「光雨糸」
私という一個の生命体を吊り上げる
幾本もの燦めく色とりどりの光雨糸
風が吹いても吹かなくても千切れることのない
色とりどりの光雨糸 指先を絡めて
源の啓示を承ろうと 海面でもがく白鳥
それは美白い朝だった
140字のエチュード―VoL.17
6:11 - 2015年4月26日
春はあけぼの、人魚と猫が見つめ合う。移り気な視線が一つに交わった時、空には再び満天の星が煌き、海では蛍が燥いでる。瑠璃色の世界全てにスポットライトが照らされて形作られた二つの影がゆっくりと重なり合えば、黒い愛は天鵞絨よりも艶めいていた。太陽は目を閉じて、眠る様に影の幸福を祈った。
2:54 - 2015年4月29日
天上から美しい排泄物が
雲をすりぬけ何処までも落ちていく
横風の影響を一切被ることなく
空と海との間に見えない垂線を刺す
海底よりももっと深くに沈みゆくこの美しい排泄物に
そしてこの美しい排泄物は可笑しなことに
気づけば実家の天上まで落ちていた
5:43 - 2015年4月29日
子猫が列をなして母乳を吸っている。背中の毛並みがうつ細波は、まるで希望を運んでくるかのように見て取れた。この時わたしは、仮に自分が今もしもこの場所で死んだとしても、相変わらず「このまま」ずっと続いていきそうな世界のことを初めて素敵だと思えて、嬉しかった。子猫の鳴き声は温かく、暫くの間、耳の中でそっと反響していた。
3:08 - 2015年5月16日
「ブルームーン」
此処ではない、宇宙のもっと高い所で
青い薔薇が 一枚いちまい散る度に
空は 満たされてゆく自我を持て余しながら
爽やかな風の吹くことを祈った
涼しげな風は花びらに翼を与えて
空を何処までも散りばめていく
世界の完成する、その少し前の光景を
絵のない言葉にしたためたくて
6:30 - 2015年5月19日
高い塔から飛び降りた
彼の心にはきっと
短くて長かった闘い・逃避の道のりや
火花のように弾け散る一瞬の勇気が
詰め込められていた
暗闇の中、落下する
彼の身体を細切れに
映し出しているそのはずの
高い塔の鏡の壁は
確かに輝いていたはずだった
この街の生に不可欠な
いつもの海と太陽のように
5:07 - 2015年5月22日
流れない星は輝く瞳になりたくて。手にしたはずの答えは薄暗闇の中へ消えた。黄昏の風に吹かれてやって来た問いかけをそっと抱き締める様に考えていた事をふと、思い出す。摩り下ろされた林檎を吸い込む赤子の寝惚け眼は今夜の星空を見据えていたのかもしれない。一緒に生きていくと覚悟した朝の抱擁。
6:15 - 2015年5月24日
僕の魂はあるがままの
危険な肉体を心に纏い
全てのindifferentな現象を詩に置き換えて
全ての言葉を愛そうと試みているー
小説「虹の樹」
桜の花弁の散った後、樹には沢山の言葉が生い茂っていた。忙しなく街中を歩き回る人々の目には表面的な「失望」しか映らなかったものの。精々、恋人と別れた直後の人が「惜別」の一葉を見出すのが関の山と言った所か。
言葉は一体、誰に対して、どんな思いを伝えようとしているのだろう。
冷たい海風が吹いてきた。もうそろそろ春の時節も終わりを迎えようとしているのに、寒かった冬を呼び起こす様な、その海風は枝に実る沢山の言葉を揺らし、その内の幾つかを振るい落とした。その中には先程の表面的な「失望」や「諦め」といった観念的なものから、「事故」や「自殺」といった何らかの出来事を示唆する様なものまで、多岐に渡った所謂、「悲しみ」というものを含んでいた。
とは言え、それらの言葉を失った所で、桜の樹は別に何とも思わなかった。もしかすると、いつの間にか「感情」という言葉さえも、知らない内に無くしてしまっているのかもしれない―、という微かな恐怖すらも、「覚えた」というより「覚えたかった」と言った方が適している様に思えた。
それにしても―、桜の樹にとっては、何もかもが不可思議だった。たった今、自分の身から散っていった言葉の中には何一つとして、「美しさ」や「素晴らしさ」といった要素は含まれていないはずだというのにも関わらず、これらあれらそれらの言葉の全てが、やがては土の中へと安らかに還っていくことが! (そういえば最近、「浄土」や「楽園」といった言葉を見かけたが、これらは一刻も早く雨風に浚われたがっている風に察せられた・・・)そして、根や幹を成長させるための肥料となって再びこの場所へと戻って来ることが!
葉桜は神秘の正体を確かめるために、地面に散らばった言葉を見つめた。その中には白桃色の花弁も無数に敷き詰められていた。葉桜はこれらの花弁がかつての自分の姿そのものだったという過去をどうしても信じられなかった。というのも、花弁が余りにも爽やかに、かつ官能的に、そよ風にふわふわと乗って天使のように舞っていたからだ。もうとっくに生きる力を損なっているはずだというのに、花弁の中には伸ばされた枝の先端よりも高く高く上空へと舞い上がるものもあり、ぼくは酷く哀しくなった。と、嘆き悲しもうとする間もなく―
枝先から「ぼく」という言葉が何事もなかったかの様にハラリと散っていった。仕方なく「Boku」が「僕」という言葉をわさわさと引っ張り出して来れば、これらの言葉もまた同様に呆気なく散っていった。葉桜は性格上、「俺」を使うことを厭うていたから、今度は「わたし」や「私」を取り出した所で結果はまるで変わらず、「葉桜」は「自分」のことを何と表現すればいいのか、分からなくなってしまった。そうこう言っている内に「○○」は目の前が真っ白になり、一瞬何も見えなくなった。眩しい日差しは昨日よりも「変に」「暖かく」感じられ、季節は冬へと逆行していくかの様だった。
雀が飛んで来た。とても楽しげな歌声を口ずさんでいる。幸い、意味は分からなかったので、原因不明の病によって言葉を失う必要のない者は一先ずホッと一安心した。雀のクラシカルな鳴き声が、数々の主語を失った者の意識を次第に冷めさせた。
考えてみれば、いずれは再び戻って来る言葉を一々、失うことに怯える必要など無いはずだった。とすれば、主語を失った―この、一連の出来事の当事者は、一体、何に対して「怯えている」のか、いや、「怯えようとしている」のか。
(何をそんなに考え込んでいるの?)並木道の向かい側に生えている樹が尋ねてきた。(こんなにも雀が素敵な歌を披露してくれているというのに)
(そうだね、本当に―)向かいの樹に同調して、それからほんの少し間を置いた後に(ごめん、考えていることは上手く言えないことかもしれない)と曖昧に答えた。雀は相変わらず歌い続けていた。(こっちに来て歌って欲しいなぁ)向かいの樹が羨ましそうに言ったその声が、とても憎たらしくて可愛かった。思わず、「殺して」やりたいと思える程のものだった。
「こ・ろ・し・て」木肌にこだましたその声にならない声と、幹の中から湧き上がった思いが共鳴した。底を見ればとても軽い、けれどもしっかりとした芯を持った何か、がよりかかっている。先程の日差しとはまた違う、とても「優しく」「傷ついた」「暖かさ」が心にじんわりと伝わってきた。こんなにも素敵な何か、がこの世に存在しているのなら、「○○」はその正体が永遠に分からなくても仕方がないと思ってもいいかもしれないと、はじめてそう思えた。
(何も言わずに、ここでゆっくりしてっていいんだよ)
「○○」はできる限りの「優しさ」を幹や枝に実る全ての「緑」に込めた。何か、は意を決したかの様に言葉を一枚、摘み取って行った。幸せな「痛み」が残された言葉を刺激した。葉裏に言葉にならない思いが影となって鮮やかに詰まった時には、もう既に「虹」は心に描かれている。
140字のエチュード―VoL.16
2015年3月31日7:31
鶏もも肉を切る包丁に込められた力は、同時に他の何かも一緒に切ろうとしていた。切先のつっかかりが胸の奥に重たくのしかかってきたものの、その正体を掴むことはできず、貴方はただひたすら包丁の柄を強く握りしめている。緊張の高まった身体は必死に刃の行く手を阻んでいるかのようで、可愛かった。
2015年4月1日4:32
夜更けのベランダから雨に包まれた庭園を眺め見る。日中、噴水を沸かせるためだけにじっとしていたペリカンがぺたぺたと翡翠色のタイルを歩き回っていると、不意に無数の円盤が流れてきたので吃驚した。円盤投げの練習をしていた銅像は「お互い夢なんだから当たっても痛くはないよ」と言って微笑んだ。
2015年4月2日3:43
清々しい疲労は醜さを忘れさせる最上級の美酒。百合の花を買って家に帰ろう。初々しかったはずの帰り道も慣れてくると極々自然の美しい風景として見て取れそうな未来が嬉しかった。タンポポの綿毛が前を歩く人の背中に小さな羽根を生やして何処かへ飛んでいってしまいそう。海にはカモメが咲いていた。
2015年4月2日7:32
桜の枝が折れた夜
断端は雨に震えて
訴え続けている
幻となった花弁の
冷たい美しさを
触れない温もりを
2015年4月3日5:41
チラシの裏に一つの物語を書き写す。この物語の世界の中にずっと居たいと願いながら。僕の身体はゆっくりと紐解かれていき、次第にきめ細やかな文字列へと変わっていく。僕の身体が消えた時、僕の気持ちは!人生は!全て紙の上を流れるだろうが、やがてはそこに漂うことにすら飽きてしまうのだろうか。
2015年4月5日7:00
酉が鬼の隣を飛んでいる。私は酉を白く、鬼を虹色に塗ることにした。虹色は鬼の輪郭を貫き、淡い空へ滲み広がっていった。時を巻き戻せば案の定、天上へ引き寄せられてゆく雨粒に太陽光が反射し、プリズムのように拡散した。これから白くなるはずだった酉の正体が鳳凰だったことに今気づけて良かった。
2015年4月8日5:46
桜の花弁が薄氷に敷き詰まる。氷面に映った頬は白桃色に染まり、私は咄嗟に目を中空へと背けた。木花咲耶姫が自らのか細い指先に温もりの風を吹きかけ、冬と春の狭間を通り抜けていく。その儚い様を見逃さない為に瞬きを忘れた私の足元に張られた氷は粉々に砕け散り、私は花弁と氷片と共に光へ飛んだ。
2015年4月10日18:54
白い鳥が飛んでいる。青空の淑やかな薫りを浴びて。優しい鳴き声は、雪崩れる電車と人混みの足音に掻き消されたことで、その優しさを証明させた。
2015年4月12日3:40
晴れた青空の中、止め処なく水蒸気は上り続ける。濡れたアスファルトの涙も乾き、散った桜の露と混ざり合った匂いを名残惜しむかのように雀が囀る。虹は微笑む。夜はまだ起きなくていいことにすっかり安心し切って眠っている。
2015年4月12日7:58
祖父の踏み外した階段は、彼にとっては存在しないも同然だった。従って、彼はそもそも転倒などしておらず、むしろ心配して手を差し伸べている此方が変だということになるらしかった。祖父は何事も無かったかの様にゆったりと立ち上がり、再び歩き始めた。その後に二つの影がそっと夕陽に溶けていった。
2015年4月13日21:18
雨天に雷の音が鳴り響いたということは光った訳だ、その雷は。怒りを轟かせるその少し前に、私のいない場所で。いつも見慣れていたはずの街並みが急に仄白く消えてしまう様な、そんな感覚を、一瞬の光の中に見出すことができればー
私はもっとあなたを大切にできるでしょうか。