140字のエチュード―VoL.19

6:17 - 2015年7月13日

シルクハットの中から

逃げ出した白い小鳥は

夜空に向かって訴えた

その潔白な逃飛行をー

 

一瞬ごとに消えていく

絹の道に残された微かな温もりを小鳥は!

信じたくない余りに翼を大きくバタつかせ

健やかに眠る太陽を起こしに行った

 

1:51 - 2015年8月8日

夕立ちが迸る感情。嘘は次々と弾けていく。黒は白に、白は黒に。虹のデッサンは永久にモノクロを繰り返す。少しずつ磨り減らされていく地層。埋もれたまま光る機縁に恵まれなかった宝石の数々。ずっと探し求めていた物を漸く見つけてしまった人の喜び。ビビッドな煌きの下、虹は時を超えて眠り続ける。

 

8:03 - 2015年8月15日

誰にも伝わらない詩を独り言ちたくなった夜/累乗されるその度に√で優しく包み込まれる愛とは一体?/何気無い一言が知らぬ間にあなたのことを傷つけていたんだね/根無し草と流木は互いの場所を行ったり来たり/理解されない悲しみを抱えながら二つの生命は異なる道へ/返信不要の片思いを捧げたくて

 

14:46 - 2015年9月19日

ふくよかな白鳩は

無我夢中で銀杏を啄む

お腹は空いてないけれど

こころを膨らませたくて

 

8:51 - 2015年9月20日

見える蜻蛉

聴こえる松虫

秋は微睡み

昼夜重ねる

 

17:10 - 2015年9月21日

遊園地の白馬は

青空の下で

ぐるぐる回る

小さなおしりの温もりと

水色の風に戯れながら

 

7:17 - 2015年9月22日

天空の崖から

突き落とされた

人体の神秘は

落下するにつれて

肉が削げ骨も外れ

臓器も破裂したのに

まだ何かを隠している

心の残像と余韻を

氷雨に託していた

 

22:16 - 2015年9月22日

氷雨の涙は紐解かれた

珠数の様に飛び散って

晩夏を知らす花火と共に

冷たく熱く空をつたった

 

4:35 - 2015年9月29日

無数の瞳に

丸い月

檸檬色の小魚が

夜の海に散る

透明な

水槽を越えて

 

16:02 - 2015年10月26日

秋雨の波紋の描く年輪をばしゃばしゃと踏みはしゃぐ児

 

7:33 - 2015年11月2日

繭の空から絹の雨

melancholicな心は白く清らかに

俄かに街には静謐な午後が訪れた

揺蕩う蚕は雪の様

麗らかな春をあてもなく目指して

手首の包帯に潜む寒紅に誘われた

 

7:07 - 2015年12月26日

藍色の閃きが

満月に反射して

暗がりを裂いた

 

4:37 - 2016年1月22日

月に雪

霞草舞う

寒さかな

 

3:30 - 2016年1月25日

光の隠れ家へ行きたくて

仔犬は氷面を駆けまわる

冷たさと痛みの塗られた

小さな足は燃えている

 

凍った手綱は  力強く

駆ける炎に引っ張られて

僕の右手も  肘も  肩も

融けかけた弓矢のよう

 

17:22 - 2016年2月10日

月の光/竜胆の悲しみ/三毛猫の恋/厭に静かな夜/涙腺が緩んで、雨/メタファーの真意は霧の中/傘を閉じて、目を凝らしても何も見えない/祈りの指先に点る蛍を頼りに、前へ/変光星は僕らに幾つもの可能性を示す/透き影を追い求めて、蒸気のようにゆっくりと昇っていこう/薄雲が風に流れる星月夜