140字のエチュード―VoL.21

幻の城/牢獄の美 天鵞絨の幕/草いきれの憧れ 列車の窓から死が落ちる ルビーの血はアルプスの台地に弾け飛ぶ 8:20 - 2016年7月11日 海に夕陽/皮膚に刻まれた時 綺麗は汚く、汚いは綺麗… 意味は今でも分かっちゃいない 行かないで! いつかの自分が叫んだ…

140字のエチュード―VoL.20

5:42 - 2016年5月28日 細波のように静かに引いていく感情。美しい潮騒の音は何処へ消えてしまったのだろう。美しい潮騒の音を思い出す度に僕は泣いてしまう。美しい潮騒の音を僕は無かったことにしてしまいたい。今そう思ったことも無かったことにしてしまい…

140字のエチュード―VoL.19

6:17 - 2015年7月13日 シルクハットの中から 逃げ出した白い小鳥は 夜空に向かって訴えた その潔白な逃飛行をー 一瞬ごとに消えていく 絹の道に残された微かな温もりを小鳥は! 信じたくない余りに翼を大きくバタつかせ 健やかに眠る太陽を起こしに行った 1:…

140字のエチュード―VoL.18

4:11 - 2015年5月31日 「The Bird and the bee」 蜂鳥はダリアの周りで何度も口ずさむ またやってみな またやってみなって 蜜の滴る花弁は 風に何度も祈りながら 散り際の美を繰り返そうと 己れの万華鏡の内側で 感謝と裏切りに揺れた・震えた・そして飛んだ…

140字のエチュード―VoL.17

6:11 - 2015年4月26日 春はあけぼの、人魚と猫が見つめ合う。移り気な視線が一つに交わった時、空には再び満天の星が煌き、海では蛍が燥いでる。瑠璃色の世界全てにスポットライトが照らされて形作られた二つの影がゆっくりと重なり合えば、黒い愛は天鵞絨よ…

小説「虹の樹」

桜の花弁の散った後、樹には沢山の言葉が生い茂っていた。忙しなく街中を歩き回る人々の目には表面的な「失望」しか映らなかったものの。精々、恋人と別れた直後の人が「惜別」の一葉を見出すのが関の山と言った所か。 言葉は一体、誰に対して、どんな思いを…

140字のエチュード―VoL.16

2015年3月31日7:31 鶏もも肉を切る包丁に込められた力は、同時に他の何かも一緒に切ろうとしていた。切先のつっかかりが胸の奥に重たくのしかかってきたものの、その正体を掴むことはできず、貴方はただひたすら包丁の柄を強く握りしめている。緊…

140字のエチュード―VoL.15

2015年3月20日16:18 薔薇の香りが石鹸で洗った手からもリップクリームを塗った唇からもトイレの中からさえも漂っているというのに、この家に薔薇の花は一輪も咲いていない。棘のない薔薇の存在できない哀愁が、隙間窓から外へ漏れている。そよ風…

140字のエチュード―VoL.14

2015年3月12日4:31 「I was born」 で、 生まれさせられた 私! なのに 「I was died」 と、 言えないのは何故? 2015年3月13日6:27 枯れ葉がひらひら落ちていつた 新芽を隠した枯木は死んだ振りをしている 流れ星がきらきら光つて…

140字のエチュード―VoL.13

2015年2月28日23:25 横たわった柔らかい肋骨は 痛みという名の見えない弓矢を やっとのことで飛ばして折れた その内側に潜む心を守るために 露わになった心に僕は そっと指先を近づけた 瞬間! 見えなかったはずの弓矢が 震える僕の善意と擦れ違…

昔詩「XXX」

もう分からないんだ 誰が好きとか 何がしたいとか くそ何やってるんだ 早く行かなきゃ 前に進まなきゃ それなのに嗚呼― 窓ガラスで切り取られた空はどんより 雨が降ったり止んだり、また降ったり 僕は行ったり来たりで、ヒ・ト・リ・キ・リ 深夜3時につぶや…

140字のエチュード―VoL.12

2015年1月1日23:30 この街に雪は積もらない。生命の種はきっと何処かで春を待っているのだろう。臼に餅のつかれる音を久々に聞きたいと思った。襷が知らぬ間に受け継がれていくのをぼんやりと目にしながら。来年の目標は何か、と年明けに尋ねられ…

140字のエチュード―VoL.11

2014年10月14日5:15 海砂はさらさらとした柔らかい掌で私達の靴底を撫でる様に呑み込んだ。たとえ光が弱くとも重なり合った心身を覆う影は限りなく薄い。それだけで救われた面持ちになれればいいのにと何度願ったことか。それでも瞳は太陽を仰ぎ…

詩「♀ok♂nna」

締めつけられている 今、私の胸は締めつけられている 太陽は優しく そよ風は心地良く 私を取り巻く 平凡でありきたりな幸福 皆の目にはそう映る そう映るように私が振舞っているから そう振舞うように誰かに強いられているから 誰に? もしかしたらそれは 人…

140字のエチュード―VoL.10

2014年9月5日5:27 太宰治の「晩年」や小島信夫の「美濃」には突発的な面白さがあると思う。どういうことかと言うと、適当にぱらぱらと捲った先に綴られてある文章がそれだけでもう既に面白く、読み手は思わずクスッとさせられる。しかも各々の笑点…

140字のエチュード―VoL.9

2014年8月10日0:55 蒲公英の綿毛が空を舞う。それを祝うかのように漂う誰かの鼻歌は電車の通る音と共に過ぎ去っていった。今聴こえるのは蝉の鳴き声ばかり。しかしそれよりも私にとっては彼女の撮った映像の中で繰り返されるつばめの囀りの方がも…

140字のエチュード―VoL.8

2014年7月23日6:29 最近、野良猫との遭遇率が高い。昨日は黒猫、今日は白と茶色の紋様が入り混じった猫。どちらも暑光を避けようとカラダを小さくさせて日陰に隠れていた。熱に蕩けた虚ろな目で影を羨んでいたら見つけたのだが、その時何故か私は…

ミニ説「虚勢」

私は睫毛だ。鼻毛ではない。昨日抜けたばかりなので傍から見ると区別はつかないだろうが、誇り高き睫毛のプライドを守るためにももう一度繰り返し言っておく。私は睫毛だ。それともう一つ、私は昨日死んだ。糞野郎のぶっとい指に引き抜かれて殺されたんだ。…

小説「思い出」

小学生の頃、ぬり消しが流行っていた。机の上に散らばった消しカスをせっせと集めてはぐりぐり。粘土のように押し固めたぬり消しは次の授業が終わるまでなくさぬよう筆箱の隅に閉まっておくのだ。 ぬり消しの醍醐味は何と言ってもライバルと大きさや形を競う…

ミニ説「最後の晩餐」

テレビで矢野顕子が「ラーメン食べたい」を歌っていた。聴いているうちに何だかメン子もラーメンを食べたくなった。が!、彼女は何とかその欲求を堪えた。ダイエット中だったからだ。それに彼女は今、彼女にしては珍しいことに自炊を続けている。しかも何日…

詩「相似」

ボクのベッドに敷かれた しっとり冷えたシーツに 横たえられたマネキン みたいなボクの身体は 忘れようと必死だった 再び起き上がることを ボクのベッドに敷かれたシーツは青かった 晴れ渡る空のように青木繁の描いた海のように 青かったそのはずだったかつ…

140字のエチュード―VoL.7

2014年6月29日6:43 ひさしぶりに棒ラーメンを食べた。おいしかった。葱とハムとわかめを入れた。わかめはいらんやろと思ってたけど意外に合った。あ、普通か。たまたま敬遠してただけかもしれない。わかめはみそ汁に入れるものだと決めつけていた…

140字のエチュード―VoL.6

2014年6月9日4:17 目で聞き耳で見る。そのような芸当は到底誰にも叶えられない現象だと今まで考えてきたし今でも半信半疑だけれど、最近もしかしたら起こり得ることかもしれないと思い直している。実際に目の当たりにしたことはないから説得力にも…

140字のエチュード―VoL.5

2014年5月19日1:21 ASKAさんは私がこの世に生を受けてから憧れた最初の人だった。それだけに今回の事件は難しい。また、最近どこかの小学校でも校長が薬物で逮捕されたという報道を見た。その方も校歌を作曲されていたとのこと。単純に比較はでき…

140字のエチュード―VoL.4

2014年4月25日17:32 彼方よりあゝといふ感嘆の叫び声が聞こえる。まるで耳うちするかのように余りにも微か密やかな余韻を奥深くへ響かさせるそれはほんたうに人間の発したものかそれとも人になる以前の猿人もしくは原人によるものかいまを生きる…

140字のエチュード―VoL.3

2014年4月1日1:15 小学生の時、図書室でまいにち本を借りる女の子がいた。ある日その様子をみていたクラスの担任が「ホントにゼンブ読んだの?」と女の子に問いつめた、ように私にはみえた。女の子はおびえたまなざしで小さくコクリと肯いた。ウソ…

詩「ひるやすみ」

今、僕は 木蔭でやすんでいた ゆっくりとね 平日の昼下がりの午後 これがいわゆるほんの わずかな気休めってやつか? この、かけがえのない それでいてつまらない クーハクナヒトトキ 僕はサンドイッチと アイスコーヒーを手にして それらしくふるまう 必要…

140字のエチュードーVoL.2

2014年2月12日3:29 私事で恐縮ですがブログをはじめてみました。今の所は星新一さん風の自作小説を載せていこうと考えております。えー、全ぜん星さんのと違うじゃん、とお気に召さない方もいらっしゃるでしょうが、あくまで個人の趣味の範囲で書…

小説「美女」

「お願いします。どうか私を逮捕してください」 突然交番の前に現れ、私に対してその言葉を発したのは一人の若い女だった。この辺りは普段から人通りも少なくめったに交番を訪ねる人間もいないため、私はこの奇妙な申し出によって動じた心情を咄嗟に誤魔化そ…

小説「月のぼやき」

ぼくは月。いつも夜空に浮かんでみんなを見守っている。たまに仕事疲れの大人が、ふと、足を止めてぼくを見上げたかと思えば、どことなく元気になってくれているのが嬉しい。もちろんぼくは大人だけじゃなくて子供達のことも大好きだ。特に寝る前にぼんやり…