140字のエチュード―VoL.17
6:11 - 2015年4月26日
春はあけぼの、人魚と猫が見つめ合う。移り気な視線が一つに交わった時、空には再び満天の星が煌き、海では蛍が燥いでる。瑠璃色の世界全てにスポットライトが照らされて形作られた二つの影がゆっくりと重なり合えば、黒い愛は天鵞絨よりも艶めいていた。太陽は目を閉じて、眠る様に影の幸福を祈った。
2:54 - 2015年4月29日
天上から美しい排泄物が
雲をすりぬけ何処までも落ちていく
横風の影響を一切被ることなく
空と海との間に見えない垂線を刺す
海底よりももっと深くに沈みゆくこの美しい排泄物に
そしてこの美しい排泄物は可笑しなことに
気づけば実家の天上まで落ちていた
5:43 - 2015年4月29日
子猫が列をなして母乳を吸っている。背中の毛並みがうつ細波は、まるで希望を運んでくるかのように見て取れた。この時わたしは、仮に自分が今もしもこの場所で死んだとしても、相変わらず「このまま」ずっと続いていきそうな世界のことを初めて素敵だと思えて、嬉しかった。子猫の鳴き声は温かく、暫くの間、耳の中でそっと反響していた。
3:08 - 2015年5月16日
「ブルームーン」
此処ではない、宇宙のもっと高い所で
青い薔薇が 一枚いちまい散る度に
空は 満たされてゆく自我を持て余しながら
爽やかな風の吹くことを祈った
涼しげな風は花びらに翼を与えて
空を何処までも散りばめていく
世界の完成する、その少し前の光景を
絵のない言葉にしたためたくて
6:30 - 2015年5月19日
高い塔から飛び降りた
彼の心にはきっと
短くて長かった闘い・逃避の道のりや
火花のように弾け散る一瞬の勇気が
詰め込められていた
暗闇の中、落下する
彼の身体を細切れに
映し出しているそのはずの
高い塔の鏡の壁は
確かに輝いていたはずだった
この街の生に不可欠な
いつもの海と太陽のように
5:07 - 2015年5月22日
流れない星は輝く瞳になりたくて。手にしたはずの答えは薄暗闇の中へ消えた。黄昏の風に吹かれてやって来た問いかけをそっと抱き締める様に考えていた事をふと、思い出す。摩り下ろされた林檎を吸い込む赤子の寝惚け眼は今夜の星空を見据えていたのかもしれない。一緒に生きていくと覚悟した朝の抱擁。
6:15 - 2015年5月24日
僕の魂はあるがままの
危険な肉体を心に纏い
全てのindifferentな現象を詩に置き換えて
全ての言葉を愛そうと試みているー