140字のエチュード―VoL.10

 

 2014年9月5日5:27

 太宰治の「晩年」や小島信夫の「美濃」には突発的な面白さがあると思う。どういうことかと言うと、適当にぱらぱらと捲った先に綴られてある文章がそれだけでもう既に面白く、読み手は思わずクスッとさせられる。しかも各々の笑点は取りとめもなく勃発するので、これらの辞典的小説に字引きは要らない。

 

 2014年9月6日6:18

 かぐや姫の名前の由来。諸説ある内の一つが「かげ→かぐや」というもの。古語辞典によれば「影」とは、光が射したことでそこにあるように目に映った物を意味する。実体ではなく実体から離れた所に現れるその姿を私達が認識することで初めて影は光を帯びるのかもしれない。月の雫が滴り影の涙が滲んだ。

 

 2014年9月8日5:44

 こうして今、呟く前に僕の指先によって消された言葉は、もうこの先、他の誰にも見られることはない。きっと明日になれば、自分でも忘れているだろう。しかも僕は別にそれでもいいと思っている。むしろ恥ずかしい思いをせずに済んだという安堵感も少し。蝋燭の火は尽きたことすら忘れて燃えているのに。

 

 2014年9月12日3:48

 ハートネットテレビが自殺に関しての特集をしていた。リストカットは死ぬためではなく、むしろ生きるためにしている。それを見聞きした時、私も似たようなものだな、と思った。ただ自分の場合はそれが「書く」行為として表れているだけで本質的には何も変わらないと。小さな死を大きな生とせんために。

 

 2014年9月20日0:57

 木霊の囁く詩に耳を傾ければ、荒廃した心でさえも再び芽生えさせることができる。無能な私にそんな力強い言葉を言い切る根拠は何もないが、幸いにも彼の胴体からは手足が生え大地を踏みしめ天を溶かそうという青い熱が発せられている。冷たい風は容赦なく偽りの衣を剥ぎ取るも真実の残滓は暖かかった。

 

 2014年9月24日7:39

 紺碧の氷に星屑のパウダーを混ぜて砕くと小さな夜のスムージーが時の器を満たした。それは熱したものの心を冷まし安らかな眠りへと誘う。人々の吸息は透明なストローをかぐや路に変えることで幻を啜って現実を溶かしていく。影と光の境界に佇むあなたの姿形は未だに朧気ではあるが深い潤いと共にある。

 

 2014年9月27日6:10

 の、は転がっている。電子空間に建立された伽藍の、縁を隅々まで超高速の、スピードで誰にも気づかれないようにそっと。それはきっと本字も知らない内に世界征服すら果たしてしまうだろう。ほら、いつの、間にかあなたの、の、も何処かへ消えた!増殖・凝集したの、は独裁を絶やし真の、自由を求める。

 

 2014年9月29日6:05

 青い空に真紅の太陽が蕩けると紫の後光が虚すらも実へと変えてしまう。実なるものなど存在しないと嘆く一方、自らが虚であることに関しては疑いもしない輩を嘲笑い慈しむ様に。悪魔は何も捨てないことで全てを失ったが、飛べない天使は何を得たのか。地球を撫でても答えは出ない。水面の羽根を愛でる。

 

 2014年9月30日6:46

 眼鏡を外せばぼんやりとした視界の内で永遠に散ることのない花火となった信号機は最早何もかも止められなくなった。車は渋滞しているかの様に見えるだけでその隙間からは着実に未来が流出している。どうやら交差点で死と擦れ違ったらしいが、そのことに本当の意味で気づける時はやって来るのだろうか。

 

 2014年10月1日6:00

 いつの間にか君はいなくなってしまっていた。逃した鯛はエビの殻を身諸共喰い千切り海のトンネルを今宵も泳ぎ続けているというのか。釣針に抉られたおちょぼ口から血を滴らせたまま誰にも気づかれない涙を流して。不自由と孤独の下に君が君らしくなれるのだとすれば、僕は君を知らずに寄り添うだろう。

 

 2014年10月3日7:12

 夕焼けを眺める君を見つめる私を綺麗だと言ってくれたあなたの髪は優しい風を世界に知らせた。そうか、行き先はそっちでいいんだね。唇の洞穴からは音声の灯火が止め処なく燃えているのに余韻はいつから始まったのか。まだ何も交わさない私たちに張り巡らされた赤い血の糸は小さな死の地図を結わいた。

 

 2014年10月5日1:44

 青白い光の樹が街に根ざす。さっき飲んだコーヒーの香りは闇夜に染み込まれる様で薄紅色の唇は幾つもの星屑に吸いついていった。儚い甘い煌きをどうか忘れないで欲しいと願った彼らは初めて知った。接吻のほろ苦さを。消えたチョコレートの光粒を口に含めた者など誰もいない。静かな拍動だけを信じて。

 

 2014年10月6日8:07

 STAP細胞の笹井さんにしても佐世保事件の加害者の父親にしてもそうですが、これから自殺をするかもしれない恐れのある人、特にその社会的背景を第三者から窺い知ることのできる人に関しては、事件の深層追究のためにも現状より質の高い予防策を講じて適応させる必要があるように思えてなりません。

 

 2014年10月7日8:13

 今日一日にあった全てのことを忘れてしまいたい。素晴らしいことも哀しいことも全部ゼンブ。点描画になった彼らの顔は気づけば私の自画像と混じり合い新たな命の輪郭を醸し出していた。打ったフォントは今でも如実に拡散し続けている。意味と価値を天秤にかける必要はもう無いと言わんばかりに。スキ。

 

 2014年10月10日7:55

 無数のビル群に月が隠れては現れる。電車の夜窓に浮かぶ人を照らしながら。久々に地球の影に覆われた気分はどうでした?無垢の明かりに問いかけても答えは返って来ないと分かっているからこそ飛ばせた声がこだまする。あなたの空耳が偽りである様に私の詩も真実より限りなく遠い。月だけが綺麗だった。

 

 2014年10月12日8:01

 モディリアーニが死の前年に撮った写真の裏には「マンモスからマンモスへ」という意味不明の献辞が書かれていたそうだが、先週から今週にかけては「台風から台風へ」といった心境だった。今は安っぽいタイムカプセルも将来はレトロな雰囲気を醸し出すことだろう。その時、私は何処にいる?私から私へ。

 

 2014年10月12日23:08

 子供の体力が落ちていることがニュースになっていたが、その模様を株価の乱高下の様に一喜一憂的に捉えるのは余りにも時期尚早かと思われる。大人が一々過敏に反応するのは繊細な子供を無闇矢鱈と不安に陥れるだけでは?/何かを失えば何かを得る。今の子供達に備わる優れた力を見極めることが必要だ。