140字のエチュード―VoL.3

 

 2014年4月1日1:15

 小学生の時、図書室でまいにち本を借りる女の子がいた。ある日その様子をみていたクラスの担任が「ホントにゼンブ読んだの?」と女の子に問いつめた、ように私にはみえた。女の子はおびえたまなざしで小さくコクリと肯いた。ウソだな、とそのとき私は思ったが、別にゼンブ読まなくてもいいじゃないか。

 

 2014年4月2日5:33

 桜のちった花びらがかわくとそれはまるでしそのふりかけのようであることにきづいた白ごはんはいつのまにか雪になっていてそこを狐がほりかえしてみたところ黄金にひかりかがやくいちょうがみえたり蝉のしがいがもたらす残響がきこえたりでわたくしの心はいちはやくあつくもえたぎるけはいなのでした。

 

 2014年4月4日8:35

 ゴッホの描くひまわりには色々なきいろが含まれている。嬉しいきいろ怒ったきいろ哀しいきいろ楽しいきいろ不思議なきいろ人恋しいきいろアルルのきいろゴーギャンのきいろ分かってほしいのに誰にも理解されずに悶え苦しんだきいろ金色になれないまま死んでしまったきいろそれでもなぜか甦ったきいろ。

 

 2014年4月5日4:26

 最近わたくしが気になった誰かの言葉をあまり取り上げなくなったのははじめに比べてその試みがどこかぎこちなくなってしまったからでございます。別にいわゆるイイ言葉を探すためだけに読書に勤しむ訳ではありませんが、どうしても意識的に文字を追ってしまう自分がいてこりゃあ少し休まにゃなるまい。

 

 2014年4月5日20:29

 近所のスーパーにて。店員さんのお肉を宣伝する叫び声と野菜売り場における「やさいやさいをたべようすこやかに~♪」という誰だか知らない人の歌声とソファ周辺のスピーカーから流れるAKB48の楽曲とそこでぺちゃくちゃ喋るおばちゃんらの愚痴と赤ちゃんの泣き声によるミゴトなコラボレーション。

 

 2014年4月6日0:57

 タモリさんが笑っていいとも!で番組の長続きの秘訣を尋ねられた際に反省をしないと答えたのは有名で最初にそれを聞いた時は単純に面白いなぁと感じたのだけど、よくよく考えると「反省しない」ことってものすごく難しいことなんじゃないかと最近になって再びタモリさんのすごさを実感している訳です。

 

 2014年4月8日3:03

 ふと後になって自分のつぶやきを読み返した時にこれはちょっと無いなとか失敗だったなとか感じるような内容でもやっぱりそれはその時の思考や感情の表れとして残しておくよりしょうがないと思う。たとえその言葉を見てどんな嫌悪が襲ってきたとしてもそれを自分の手でなくすことは何というか不自然だ。

 

 2014年4月11日6:10

 好きなことは分からないことを考えること嫌いなことは分かりきったことを言うこと、とそういつか人前で話す機会があるかもしれないと思った話の出番はまずないというより恐らく実際とっさにそんな質問をされた場合、私は違うことを答えてしまうに違いないからここに書いてみたとにかく心がスッとした。

 

 2014年4月12日1:46

 水の滴り落ちる音が再び誰かの心に静かな波紋を広げ始めたら私はふと何かを取り戻したような心地になる。その何かの正体を掴むべく私は私を満たす海水の奥底へ潜り込んだつもりがそこはただの小さな水溜りだったことに涙する暇もなく気づけば私は数多くの雨粒と共に滝を雪崩れて下流を巡り泡を吹いた。

 

 2014年4月12日23:57

 夏目漱石の「門」を何度か読みかけてはいつも途中で挫折しているのですが改めて冒頭から読み返してみると、やはり何気ない日常の風景や生活の営みをこれだけ的確に描写できる作家は漱石以外にいないと感服させられるばかりで、その一言一言に重みを感じて、気づけば再びぱたりと本を閉じておりました。

 

 2014年4月14日5:45

 図書館で何気なく本棚を眺めれば隣にいらした独りの、眼鏡をお掛けになったご老人が、虫眼鏡を手にされ腰を屈められ本の背表紙を食い入るように見つめなさっていた。その唯ならぬ気配に圧倒された私は助けを差し伸べる一声すらかけられず、真剣な眼差しを宿す生の躍動に唯々惚れぼれするばかりだった。

 

 2014年4月19日6:20

 逃げることの、何がいけないことなのか私はただ今まで必死になって無我夢中で生きてきただけだ。お前がかよわいはむすたーだとしてお腹をすかせたネコが目の前に現れた時に果たして立ち向かうような真似をするかあくまでお前は生を希求する本能に従っただけのことだ。私とお前は人間かそれは分からない

 

 2014年4月19日19:25

 思考の梯子は一見すると無関係に思える意外な両端を繋いでゆく。その道程は時空間を自在に往き来し止め処ない想念を文字というかたちで抽出させていく。問題は梯子が有史に渡る重厚な、それでいて梯子すらもその重力を感知できない何かを空中へ取り零さずに押し上げられるか新たな思考の浮く雲の上へ。

 

 2014年4月21日5:23

 小説を書く際ついつい登場人物を悲劇的に描きたくなるのは自らのうちに何処かタナトスのような願望が潜んでいるからかなどというナルシシズムに浸るのはもうこりごりだと開き直れば今度は一気に書く衝動が失せてしまい困ったものだもう書くのなんかやめちまえとふっきれたところでいつも書きたくなる。

 

 2014年4月22日3:14

 素晴らしいという言葉が江戸時代ではひどいとんでもないという意味合いで用いられていたのが今では正反対となっているその変遷はどのような過程を辿ってきたのか最近でもJKの言うヤバいというフレーズはむしろイイ感じのニュアンスで使われておりこの世代間の隔たりを生む根源にあるのは一種の暗号?

 

 2014年4月23日4:24

 一般的に匿名行為は余り良く思われていないのかもしれませんが、それはどちらかというと誹謗中傷のみに注目が集まって膨れあがったイメージではないでしょうか。決して匿名であることそれ自体を悪だとみなすのは良くないと感じます。確かに説得力は欠けますが限りなく自由度が増すのが匿名の存在価値。

 

 2014年4月25日0:58

  幸せになった。いくつかの観念を捨てたからだ。途端に書くことがなくなった。今まで自分の綴ってきた文字が意味を為さなくなった。これは不幸なことだ。私は旅の途中で道標を失ったようなものだ。これからどこへ向かえばいいのか。右も左もない。目の前にあるのは無、無、無。文字は煙となって消えた。