ミニ説「虚勢」

 

 私は睫毛だ。鼻毛ではない。昨日抜けたばかりなので傍から見ると区別はつかないだろうが、誇り高き睫毛のプライドを守るためにももう一度繰り返し言っておく。私は睫毛だ。それともう一つ、私は昨日死んだ。糞野郎のぶっとい指に引き抜かれて殺されたんだ。せっかく今まで成長に寄与してやったっていうのによ。この扱いは何だってんだ。全毛水浸しじゃねぇか。せめて抜くなら風呂場じゃなくて、外でやれってんだ。外ならその辺に適当にピンって弾いてくれさえすれりゃ、後はたんぽぽの綿毛みたいに風に乗って気のみ気ままな第2のライフを送ることもできたのによ。こんな浴槽の中じゃ行き着く先は排水溝ぐらいしかねぇじゃねぇか。そもそも抜くならもっと別のヤツだろうが。私の隣に生えてたヤツなんて私より背高かったのにそのまま放置されてますからね。これじゃわざわざ私のこと抜いた意味ないじゃん!ねぇ、あんた合コンに行くんでしょ? 結局、私の隣にいたヤツ抜かないと鼻毛出たままだからね。え? 私? も、勿論、私は睫毛ですよ。くれぐれも強調しておきますけど、私は鼻毛なんていう下等生物なんかじゃありませんからね!