140字のエチュード―VoL.12

 

 2015年1月1日23:30

 この街に雪は積もらない。生命の種はきっと何処かで春を待っているのだろう。臼に餅のつかれる音を久々に聞きたいと思った。襷が知らぬ間に受け継がれていくのをぼんやりと目にしながら。来年の目標は何か、と年明けに尋ねられても一々気にせず、淡々と。特別な謹賀新年を捧ぐつもりで、日々の感謝を。

 

 2015年1月8日4:35

 銀色の満月は朝になっても沈まない。イルカは誰もいない水族館の中で美しい軌跡を描いた。たくさんの飛沫が月の光を浴びて星のようにキラキラと輝く。クスノキだけがじっと見つめるこの光景はきっと、最初で最後のものだろう。馬は静かにその後を追って、永遠となった一瞬の中へ俄かに溶けてしまった。

 

 2015年1月17日0:51

 空が微睡んでいる。留守電に残された伝言は後から考えると大した内容だった。竜巻が僕の立ち竦んでいる所だけで急に巻き起こったりなんかすればいいのに、なんて下らない願いを偶に抱いてしまう自分をこんなにあっさりと許せなければいいのに。俄雨は朧げな虹を描かない処か一滴の涙すら流さなかった。

 

 2015年1月25日5:11

 影のない光に憧れることは傲慢だろうか。乾いた大地は逆さまに降る雨とさようなら。ラジオは彗星についてお知らせしないそう。梅干しはただ無性に流れたくて。てふてふはいつも周回遅れでひらひらと。時には母のない子のように僕らは永遠になれないのに。逃げるつもりがいつの間にか立ち向かっている。

 

 2015年1月31日6:58

 地球の核より覗き込めない心の底。言の葉の香りは匂うこともできない代わりに消すこともできない。いなくなりたい人はもう暫くここにいるそう。売れそうにない香りの詰まっていそうな、空っぽになったるつぼ。僕はとにかく無に感情を見出したくて堪らなかった。叩き売られなかったバナナは美味しそう。

 

 2015年2月6日3:31

 Shine,shine...何度も浴びせかけようとした小声は一瞬も光ることなく消えた。足るを知れない彼らの内にはきっと僕も含まれているから、もう何も言えないね。ネオン街に鳴り響かない足音は、耳を澄ませた所で微かに聴こえない。いつまでも会いに行かないことを誓ったあの瞬間を殺したい。

 

 2015年2月12日1:35

 一つまみの砂は放たれた瞬間、無風に強く吹かれた。大切だったものを拾うつもりなんて今更ないけど。どうして?、と心の中だけで問いかけるのは始めから返事を求めていないから。ランプは光らないことで沈黙を照らす。素直になりたい。今、ここにない幸せに気づかない振りをしないで。電波は穏やかだ。

 

 2015年2月14日2:03

 お喋りなモアイ像がいなくなれない所で僕らは何を始めればいいの?鳴いてほしかったホトトギスを健気に待つ予定もさらさらないし。獅子舞はチューインガムと、もうとっくに終わってもいい闘いを盛大に繰り広げている。類はこれ以上、友を呼ばないで!陸地は既に芽吹く緑にその身を委ねているのだから。

 

 2015年2月16日5:58

 羊の皮を被った羊は綿雲になりたかった。確かでないものまでも大事に抱えようとして。天使は零れ落ちなかった涙雨を為す術もなく見送った。高い大地と低い青空の間に放たれた弓矢は虹の軌跡を描いたらしい。今からずっとありがとう。自惚れててごめんね。猫は見ないでじっと見つめる振り。輪廻の先を。

 

 2015年2月18日4:47

 徒花や散つて本望しきつまる忘れな草に想ひ託して。底流は緩徐ながらも着実に精霊の希望を未来へと運びゆく。口寄せのおまじないは無事にアナタまで届いたかしら?撫でられる風は初めて吹かれる喜びを知った。頼んでも助けないで欲しいと背伸びして言いたい。今のわたしはまだまだ青い果実なのだから。

 

 2015年2月19日1:55

 かぐやしい月夜烏は雅称を求め今宵も彷徨う。現身を持て余して転生した記憶の反芻もままならずに。人形はとうの昔に消えられなかった。尋ね人の幻影に引き止められて。手っ取り早くない方法が結局、一番手っ取り早いのかも。もどかしい日々を大切にしたい。生きていない時も必ず生まれ変わると信じて。

 

 2015年2月22日4:25

 猫被らずのトムはいつもジェリーを追いかける。ルールを破っちゃう振りをして。天秤にかけられた仮想と現実。追悼されたかった賞味期限切れのチーズはひたすら齧歯の貫きを待ち侘びていた。忽ち、何にも起きやしなかったが。画面の中に共生する無限の可能性と絶対的な虚無。ムーミンは永遠のライバル?