140字のエチュードーVoL.1

 

  2013年12月6日6:49

 国会議事堂前。私は皆の一員となり必死に叫ぶ。特定秘密保護法案反対!反対!思い虚しく法案は成立される寸前。しかしそれでも尚、集団は叫ぶ。私も唱える。反対。直に法案は可決された。私は知らない人々の陰でそっと独り呟いた。どうかさっきまで自分が反対していた事実を秘密にしていて欲しい、と。

 

 2013年12月13日6:50

 この度たま議会議員総選挙に立候補致しました日本たまご党総裁のたまたまたま子と申します。私のタマフェストはただ一たま、たまごを守ることでありたま。そのためにはにわとりを守ることが必須です。あと、ひよこも。私は目玉焼きが大好きです!スクランブルエッグは邪道です。たまたまTPP反たま!

 

 2013年12月14日6:02

 紺とも黒紫色とも見てとれる円柱形の表面を手にすると冷んやりとした感覚が指先に伝わった。私は本当にこの内部の空間にちゃんとぬくもりが保たれてあるのか確かめてみたくなり留め具をかぱりと外して小さな穴を口で覆ってみると微かなゆげとともにお湯が流れ落ちてきた。お湯は既にぬるくなっていた。

 

 2013年12月14日6:17

 いち、に、さん、ご、なな、じゅういち、じゅうさん、じゅうなな、じゅうきゅう、にじゅうさん、にじゅうきゅう、さんじゅういち、さんじゅうなな、よんじゅういち、よんじゅうさん、よんじゅうなな、ごじゅうさんどうやら素数の魔力に取り憑かれた人間がただでは済まないという噂は本当のようです。

 

 2013年12月17日1:57

 誰かに見ていて欲しいなぁと内心期待しているような場合には殆ど誰にも気にとめられず、逆に絶対誰にも見られたくない時に限って誰かに見られているなんていうことは私の気のせいであってほしいと常々思うのだけど残念ながらやはりそれは気のせいではないらしい。いか。かえる。ルーズリーフ。ふとん。

 

  2013年12月19日5:44

 子が親に対して抱く憎しみを余り無理に消そうとしない方がいいのかもしれない。というよりむしろそれは消えない方がいいのかもしれない。愛憎とは表裏一体。憎しみと肉親を平仮名に換えると一字違い。だったらその意味も紙一重の差ですれ違っているのではないか。この憎しみは愛だったのかもしれない。

 

 2013年12月20日6:08

 雨。めんどくさい。家にいよう。うつ伏せになってふとんを被ろう。うとうとするうちにいつの間にかほらもう夢の中。彼方に海が広がっているかと思えばここも海だった。たった一人、海上を漂っている。瑠璃色の珊瑚礁がとてもきれい。今すぐにでも潜ってもっと近づいて見てみたい。命の輝き。君が好き。

 

 2013年12月21日18:14

 先日は命の輝き、君が好き、等といった気障な呟きをしてしまい真に申し訳ありませんでした。何処のどなたがご覧になっているとも窺い知れないのにこんな自己に陶酔した戯れ言を呟いた自分が自分で恥ずかしい思いで一杯です。おお、やっぱり宵の魔力は怖いこわい。ただ私はしりとりしていただけなのに。

 

 2013年12月21日6:10

 有名になりたいという欲は勿論あるけれど、それよりも大衆の面前にその身を曝け出すことで被る気恥かしさの方が大きいので私は有名になりたいとは思いません!そうはっきりと割り切れないから感情にも少しずつ靄がかかってずぶずぶと底なし沼に嵌ってしまうんだよなぁ。だけど蓮の花はそこに咲くのだ。

 

 2013年12月21日7:16

 欄干に一人の男が立ち竦んでいる。耳を両手で覆い口腔をあんぐりさせている。私を、いや、私の向こうをあてどもなく目にして訴えかけてくるものは彼の苦悩か屈辱か。それともそれはただの自虐に過ぎないのか。彼の叫びは世界に混沌をもたらす。しかし最も怯えているのは言うまでもない。彼自身である。

 

 2013年12月30日5:56

 このたび大手A製薬会社が画期的な新薬「正常薬」を開発。この薬を服用すれば周囲の人間から変人扱いされないという。もしかすると自分は異常なのではないか。悩みを抱えた多くの現代人が次々と薬に手を染めていった結果、薬の服用者による傷害事件が多発。尚、被害者は皆、薬を飲まなかった正常な人。

 

  2014年1月4日7:13

 パッションという英単語には情熱のほかにもキリストの受難という意味が含まれているそう。何だか気になり辞書を引いてみると元々の語源は苦しみに耐えること。そこから色んな意味につながっているようだが受難から情熱が生み出される膨大な過程がこのパッションという一語に詰めこまれているのが恐い。

 

  2014年1月8日6:58

 本には栞が芽生えており読者は夢の世界に生き疲れた時、その蔓を登って現実に帰る。しかしいつの間にか現実の世界にも見えない栞が根ざしており私にとってその一つが本であることに漸く気づいた。本が等身大の栞となって私の人生に挟まっていたのだ。それは思い出を分割し結晶化させる未来を約束する。

 

  2014年1月20日18:50

 その瓶には、世界が詰まっている。山を越えて海を渡ったその先に広がる水平線から、おもむろに太陽が顔を覗かせている。硝子に反射した光が瓶底を微かに照らす光景は、まるで夜明けを全ての生命に暗示しているかのよう。辺りには緑青色を纏った大気が漂い、瓶の中身と外との境界は曖昧になっていく。

 

 2014年1月22日5:36

 白い鉢植えは、冷たかった。夏に、はじめて掌に触れたとき確かに感じた、あの、熱と潤いを含んだ豊かな土壌の伝えるぬくもりは、もうなかった。深緑色だった茎は黒ずみ、黄ばんだ葉は微風が吹けば今にも散りそうだ。これでもう全ての薔薇は咲き終わった。完全にそう思っていた。小さな蕾が実っていた。

 

 2014年1月31日0:40

 のどかな昼。盧舎那仏様は本日も普段とお変わりなく、どーん、という鐘の音をBGMとして大々的に鳴らしたくなる程に堂々と佇んでいらっしゃいます。全ての生きとし命よ、さっさと悟らんかい、ときっと心の中ではお思いになっているのでしょうね。猫が目の前を通りました。たぬきは陰で笑っています。

 

  2014年2月4日5:22

 薔薇の蔓はゆき先を求めて外気を漂う。月光は深緑色の花茎や葉先を純白に染めるのみにとどまらず、その背景さえも仄白く照らす。白夜のなかで淡青色の薔薇の花がおもむろに浮かび上がる。匂いは乾風に吹かれて何処かへ消えていく。不意に花びらが一斉に飛び散ったかと思えばそれは揚羽蝶の群れだった。