140字のエチュード―VoL.15

 

 2015年3月20日16:18

 薔薇の香りが石鹸で洗った手からもリップクリームを塗った唇からもトイレの中からさえも漂っているというのに、この家に薔薇の花は一輪も咲いていない。棘のない薔薇の存在できない哀愁が、隙間窓から外へ漏れている。そよ風に乗る哀しみは儚く、すぐに洗い流された。新たな薔薇を咲かせる恵みの雨に。

 

 2015年3月21日4:47

 

 やわらかい日ざしの中で

 モンキチョウ ひらひら

 散りゆく菜の花と 幾層にも重なり合う

 ミルフィーユの春よ・・・

 

 2015年3月24日3:49

 僕の身体から肋骨を取り出した処で、誰も創れやしない。

 

 禁断の果実を食べてはいけない本当の訳は

 「食べない」ことで、味わえるからだった

 その・真の・美味しさを!

 僕達は誰も知らずに

 ただ林檎の芯だけが

 巨大な虫籠の果てに還っていく

 

 2015年3月25日19:30

 

 ここまででしょうか、

 いいえ、まだまだ。

 

 2015年3月26日1:18

 メジロが鳴いている。桜の花の蜜を吸って喜んでいる、と思う。蜜の臭いも春風に乗って聴こえる。部屋に流れるヴィヴァルディと手を携えて、メロディは見えない雨粒を弾けさせ、消えた虹を青空に描いた。

 

 2015年3月27日2:55

 梢が月に接吻している。クリムトは夜桜の頬を黄金に染めた。夜桜は恍惚に浸りつつも何処かで自分がまだ蕾のままであることに安堵していた。白桃の未来を夢見続けている今この瞬間だからこそ抱き締めていられる誇りを大切にしたかった。

 

 2015年3月27日5:29

 ミルクの微睡みはエスプレッソの奥底へと潜っていく。クレマ、ボディ、ハートに沁みた白昼夢は、気がつけばわたしの喉元を優しく撫でていた。

  

 きらきらと泡立つドリップコーヒーの残滓は小さな夜空に輝く星屑のようだった。

 

 2015年3月28日0:27

 鶯が木陰で囁いていた。振り返れば、不思議と声は静まり返った。春に祈りを捧げる沈黙は、私達を柔らかく包んだ。

 

 2015年3月29日2:32

 

 詩は微分、小説は積分…か?

 

 2015年3月29日5:06

 今まで「愛」という言葉に対して知らず知らずの内に絶対的な価値観のようなものを見出したいと、そう心の何処かで思っていたけれど、そうした愛に対する「必死」な捉え方が却って大切な人にとっての負担となって、さらには傷つけてしまっていたのかもしれないと思うと、居ても立っても居られなくなる。

 

 2015年3月30日6:24

 去年の燕がまたこの場所へ帰って来た。逞しい姿に成長して。低空飛行で桜のアーチを潜ったかと思いきや、そこから一気に急上昇。麗らかな春の日差しを浴びて、気分はより一層爽やかに。賑やかなカメラは忙しく走る電車を止めた。沢山の見えない顔は影となり、一羽の燕を知らず知らずの内に讃えている。

140字のエチュード―VoL.14

 

 2015年3月12日4:31

 

 「I was born」

  で、

  生まれさせられた

  私!

  なのに

 「I was died」

  と、

  言えないのは何故?

 

 2015年3月13日6:27

 

 枯れ葉がひらひら落ちていつた

 新芽を隠した枯木は死んだ振りをしている

 流れ星がきらきら光つていつた

 輝きを纏つた石屑は生きた振りをしている

 

 2015年3月13日7:04

 狭き門には入るのも難しいが、そこから再び出るのも難しい。命に潤いを充分に含ませてから入るのが賢明だろう。唄が聴こえてくる。ルーツの分からない、けれども美しい旋律を至る所に散りばめさせた唄。楽しい気分になってきた。竜巻が身体の奥底から沸き起こってくるような、激しい前途に対する希求。

 

 2015年3月13日18:29

 ふとんの中でバレリーナのような格好をして眠っている君。耳元で何かに囁かれたのか、咄嗟に体幹の軌跡はなだらかなカーヴを描いた。闘っているのか?懐かしくもない夢の中で。電車の通った颯爽とした音が、君の今いる世界で雷雲の怒り声に聞こえてしまうのは、単なる錯覚に過ぎないことを伝えたくて。

 

 2015年3月13日23:19

 

 手を繋いだ親子が

 野原を駈けてゆく

 陽光は二人を祝福するかのように

 光の道を架けてて、消えた―

 

 白い世界には何が待つ?

 何も待つていないとしても

 今なら許せるような気がした

 

 2015年3月15日6:09

 

 カラスは!

 暗闇全てを翼に変えて

 彼方へ消えた、そして迎えた朝の中で

 カレラは身体いっぱいに抱きしめている

 天鵞絨のように艶めいた小さな夜を―

 

 2015年3月16日6:15

 

 走れないことを気に病んでいるガラスの馬は

 始めから存在しない下半身を求めて何処へも行けない

 ところが街頭を歩いている人々はみな、

 星々のフラッシュに瞬く其の姿を目にして

 どうか時間のスロウになるよう祈つた

 

 2015年3月17日6:40

 リストの弾丸みたいなメロディが僕の退屈を打ちのめす。捨てたはずの時めきが体内で反響する。ルビーの結晶を生成できそうな今、言葉のナイフで自分を傷つける勇気は、僕にはない。幾つかの悲しみを微塵切りする間に涙が出た。玉葱がハンバーグになっても悲しみが癒えることはなかった。食べたからだ。

 

 2015年3月18日7:26

 言葉のまやかしは本物の詩になりたくて、月に吠えた。何処にも犬や狼は見当たらず、辺りはシンとしていたが、声なき声の存在を南風や桜の蕾が証明していた。虫達も皆、本当は呼ばれてここへ来ているのに、招待状を貰った覚えはないと言う。だったら無理に思い出さなくてもいいよ。春はもうすぐだから。

 

 2015年3月19日7:29

 白鷺は暗闇の中で密やかに星空を眺める。誰にも気づかれないことに安堵しながら。そこへ微かな不安が、キラリ。星の雫を口に含んだ傍から川面の震えが拡がっている。さぁ、今こそ飛び立つ時だ!何度もそう思っては翼を広げる。脚を地面から離そうと試みる。白い影絵のシルエットは美しいロゴになった。

140字のエチュード―VoL.13

 

 2015年2月28日23:25

 

 横たわった柔らかい肋骨は

 痛みという名の見えない弓矢を

 やっとのことで飛ばして折れた

 その内側に潜む心を守るために

 

 露わになった心に僕は

 そっと指先を近づけた

 

 瞬間!

 

 見えなかったはずの弓矢が

 震える僕の善意と擦れ違った

 思わず後ろを振り返った僕の

 操る身体を陽射しは貫いた

 

 2015年3月1日6:23

 もう生きなくてもいいなんて寂しいよ。弱音を吐いたその顔を思い浮かべては空々と泣く。苦しいな。なんでこんなこと、私がせんといけんと。トロイメライのメロディにそんな疑問をゆっくりと溶かしてもらえるように目を閉じる。ルーレットはいつまでも回さない。命に逆らってでも、貴方を守れるのなら。

 

 2015年3月4日5:35

 朝起きて、忘れ物に気づいた私は再び眠りたいけど。ドキドキが止まらなくて無理みたい。犬もはしゃいで吠えている。ルフィも相変わらず元気いっぱい。いない世界の人間が、私の心を伸ばしていく。クイズはさらなるクイズを呼ぶ。舞台はふとんの中から宇宙の果てまで。できないことなんてない、きっと。

 

 2015年3月4日23:58

 透空を惜しみつつじは微笑む。村雨は既に降りかけず。瑞相が朽ちる気配はなさそうで、熱はこの街に篭ろうともう少し必死でいたい。石橋を撫でるざらざらした掌の感覚が未だに生きていて、情けある。鏤骨の思い出は不自然か。神さびる哀しみに慰められつつじは笑う。上を向いて留まりたい。いつも一緒。四時限目の後にいつもの場所じゃない所で。でえと、なんてもう死語でしょう。嘘ばかり吐いているのは本当のことを何一つ知らないから。喇叭水仙はずっと枯れたまま。待ち合わせできない事実は明白なのに何故わたしは此処でもない何処かで待ち惚けていたいのだろう。宇宙人は誰もさらってくれやしない。

 

 2015年3月5日5:38

 ぬり絵に白は似合わない。イカスミでも代わりに塗っとけ。欠落した色彩感覚をモノトーンで埋め合わせ。狭い額縁にもいい加減、飽きた所で、さぁここから大脱出。月の光を紐解いて、元たる太陽までひとっ飛び。瓶詰めされた宇宙は透明を着飾る。ルールを塗り潰してまで君が手に入れたいものって一体何?

 

 2015年3月6日20:34

 豆乳の海に浸かった鱈はその身をきゅっと引き締めていた。沢山の萎びた白菜達は味力を増した事実に未だ気づいていない。意味を消化し価値を吸収していたつもりの内臓が泣いているか笑っているかなんて僕にはどうでもいい、とは言い切れない。今、温かかった喉元が明朝に向かってゆっくりと冷めていく。

 

 2015年3月9日7:32

 夜空にUFOが浮かんでいるかと思いきや、あなたの唇だった。星屑入りのコーヒーは「きらあまい」そうだから、飲み過ぎない様に気をつけて。だけど、仮にあなたが今夜の全てを一滴残らず吸い尽くしたとしても、別に朝がすぐに訪れる訳でもこの先ずっと白夜が続く訳でもないから心置きなく、おやすみ。

 

 2015年3月11日7:22

 失われる処か、まだ手に入れてすらない時を求めて夢を描こう。迂回する道もそんなに悪くはないよ。よかったら勇気を振り絞って一歩前に踏み出せば?なんて無責任なことは言えないけどさ。桜の樹の下に姿を隠し続ける根が彼方のこと大好きだって。照れた花弁は何度も風に乗ろうとしてはベランダに散る。

昔詩「XXX」

 

もう分からないんだ
誰が好きとか 何がしたいとか
くそ何やってるんだ
早く行かなきゃ 前に進まなきゃ
 
それなのに嗚呼―
 
窓ガラスで切り取られた空はどんより
雨が降ったり止んだり、また降ったり
僕は行ったり来たりで、ヒ・ト・リ・キ・リ
 
深夜3時につぶやいたんだ
僕の世界はこんなもん?
誰かの声を聴きたいんだ―
「XXX」って言ってほしいんだ!
 
今はまだ聴こえない
その声に耳を澄ませよう
今はまだ感じない
その風に身を委ねよう

140字のエチュード―VoL.12

 

 2015年1月1日23:30

 この街に雪は積もらない。生命の種はきっと何処かで春を待っているのだろう。臼に餅のつかれる音を久々に聞きたいと思った。襷が知らぬ間に受け継がれていくのをぼんやりと目にしながら。来年の目標は何か、と年明けに尋ねられても一々気にせず、淡々と。特別な謹賀新年を捧ぐつもりで、日々の感謝を。

 

 2015年1月8日4:35

 銀色の満月は朝になっても沈まない。イルカは誰もいない水族館の中で美しい軌跡を描いた。たくさんの飛沫が月の光を浴びて星のようにキラキラと輝く。クスノキだけがじっと見つめるこの光景はきっと、最初で最後のものだろう。馬は静かにその後を追って、永遠となった一瞬の中へ俄かに溶けてしまった。

 

 2015年1月17日0:51

 空が微睡んでいる。留守電に残された伝言は後から考えると大した内容だった。竜巻が僕の立ち竦んでいる所だけで急に巻き起こったりなんかすればいいのに、なんて下らない願いを偶に抱いてしまう自分をこんなにあっさりと許せなければいいのに。俄雨は朧げな虹を描かない処か一滴の涙すら流さなかった。

 

 2015年1月25日5:11

 影のない光に憧れることは傲慢だろうか。乾いた大地は逆さまに降る雨とさようなら。ラジオは彗星についてお知らせしないそう。梅干しはただ無性に流れたくて。てふてふはいつも周回遅れでひらひらと。時には母のない子のように僕らは永遠になれないのに。逃げるつもりがいつの間にか立ち向かっている。

 

 2015年1月31日6:58

 地球の核より覗き込めない心の底。言の葉の香りは匂うこともできない代わりに消すこともできない。いなくなりたい人はもう暫くここにいるそう。売れそうにない香りの詰まっていそうな、空っぽになったるつぼ。僕はとにかく無に感情を見出したくて堪らなかった。叩き売られなかったバナナは美味しそう。

 

 2015年2月6日3:31

 Shine,shine...何度も浴びせかけようとした小声は一瞬も光ることなく消えた。足るを知れない彼らの内にはきっと僕も含まれているから、もう何も言えないね。ネオン街に鳴り響かない足音は、耳を澄ませた所で微かに聴こえない。いつまでも会いに行かないことを誓ったあの瞬間を殺したい。

 

 2015年2月12日1:35

 一つまみの砂は放たれた瞬間、無風に強く吹かれた。大切だったものを拾うつもりなんて今更ないけど。どうして?、と心の中だけで問いかけるのは始めから返事を求めていないから。ランプは光らないことで沈黙を照らす。素直になりたい。今、ここにない幸せに気づかない振りをしないで。電波は穏やかだ。

 

 2015年2月14日2:03

 お喋りなモアイ像がいなくなれない所で僕らは何を始めればいいの?鳴いてほしかったホトトギスを健気に待つ予定もさらさらないし。獅子舞はチューインガムと、もうとっくに終わってもいい闘いを盛大に繰り広げている。類はこれ以上、友を呼ばないで!陸地は既に芽吹く緑にその身を委ねているのだから。

 

 2015年2月16日5:58

 羊の皮を被った羊は綿雲になりたかった。確かでないものまでも大事に抱えようとして。天使は零れ落ちなかった涙雨を為す術もなく見送った。高い大地と低い青空の間に放たれた弓矢は虹の軌跡を描いたらしい。今からずっとありがとう。自惚れててごめんね。猫は見ないでじっと見つめる振り。輪廻の先を。

 

 2015年2月18日4:47

 徒花や散つて本望しきつまる忘れな草に想ひ託して。底流は緩徐ながらも着実に精霊の希望を未来へと運びゆく。口寄せのおまじないは無事にアナタまで届いたかしら?撫でられる風は初めて吹かれる喜びを知った。頼んでも助けないで欲しいと背伸びして言いたい。今のわたしはまだまだ青い果実なのだから。

 

 2015年2月19日1:55

 かぐやしい月夜烏は雅称を求め今宵も彷徨う。現身を持て余して転生した記憶の反芻もままならずに。人形はとうの昔に消えられなかった。尋ね人の幻影に引き止められて。手っ取り早くない方法が結局、一番手っ取り早いのかも。もどかしい日々を大切にしたい。生きていない時も必ず生まれ変わると信じて。

 

 2015年2月22日4:25

 猫被らずのトムはいつもジェリーを追いかける。ルールを破っちゃう振りをして。天秤にかけられた仮想と現実。追悼されたかった賞味期限切れのチーズはひたすら齧歯の貫きを待ち侘びていた。忽ち、何にも起きやしなかったが。画面の中に共生する無限の可能性と絶対的な虚無。ムーミンは永遠のライバル?

140字のエチュード―VoL.11

 

 2014年10月14日5:15

 海砂はさらさらとした柔らかい掌で私達の靴底を撫でる様に呑み込んだ。たとえ光が弱くとも重なり合った心身を覆う影は限りなく薄い。それだけで救われた面持ちになれればいいのにと何度願ったことか。それでも瞳は太陽を仰ぎ見ていた。知らぬ間に潮騒が伽藍堂の足跡に反響している。清い貝殻を傍目に。

 

 2014年10月16日6:33

 夜になるとリンドウがあなたを出迎えてくれる。誰にも言えない悲しみに寄り添ってくれるのだ。だから勇気を出して外してみよう。その薄っぺらな微笑みの仮面を。月明かりに涙が光れば最高だ。こんなにロマンチックなことはない。逝きたい、ああもう僕は直ぐにでも飛び去ってしまいたい。この葦の外へ。

 

 2014年10月17日4:04

 嵐が去って僕らは急に何もすることがなくなった。ら、は僕から離れていってメロディの一部になった。すれ違った少女の歌う流行歌を聴いてつい微笑んでしまう不良はアイデンティティ崩壊の危機を恐れると同時に何処かでそうなることを望んでもいた。誰かに見透かされた瞬間!彼は階段から飛び降りた。

 

 2014年10月18日7:46

 さっき私の目の前にあったはずのダイヤモンドはさらさらと分解してしまった。たった一度の瞬きをした隙に消滅してしまっていた。誰にも触れられることなしに。そしてダイヤの無くなった今、私にはもう失うものすら無くなった。その光を追い求めて生きてきた鮮紅色の砂時計はいつしか堆く決壊していた。

 

 2014年10月19日1:10

 暗闇の中、振り向けばそこにあなたはいた。確かにいたと誰かに訴えても決して信じて貰えない程、微かな間。黒い海に溺れてしまうあなたの無事を祈ったことは酷く烏滸がましい行為だったのかもしれない。しかし私には結局そうすることしかできなかった。別に陶酔している訳ではない。むしろ白けている。

 

 2014年10月20日6:58

 僕らの身体は外側から剥がれる様に死んでいく。そして見えない脱皮は新しい生を齎す。どうやら僕らは自分の意思とは無関係に生まれ変わってしまうらしい。あの日の過ちも君に抱いた憎しみも、いつの間にか死んでしまった模様だ。いや、抑々それらの感情が生きていたという証明すら僕にはもうできない。

 

 2014年10月21日14:40

 白杖を手にした彼女の手も華奢な腕も絹の糸の様に透き通っていた。その瞳は陽光の射す中でも明るく輝いており、私は太陽が二つあると思い違う程だった。彼女の眼は本当に光を失ってしまったのだろうか。痛みを恐れる余りに疑惑を抱いてしまう私の心は影と共に長く伸び、その上を彼女の足は踏み締める。

 

 2014年10月22日4:30

 黄色いマグカップに描かれたりらっくまは目玉焼きを食べている。あむー、と言いながら目を細めて口をもぐもぐさせている。隣にはニワトリの着ぐるみを被ったひよこが、ぴよぴよしている。もう1ぴきのくまについてはここでは触れないことにする。3びきの中で一番大好きだとたった今、気づいたからだ。

 

 2014年11月3日5:19

 新しい靴を買った。旅に出よう。宇宙までは行けないか。帰れなくなっちゃう。海はもう寒そうだしなぁ。嵐も来そうな予感するし。シクラメンはまだ咲かない。偽ることがそんなに悪いの?中々分かって貰えるまでに時間がかかりそうだ。大好きなのに。日曜の夜に電話するね。寝静まった世界を掴みたくて。

 

 2014年11月10日5:05

 てんとう虫は何処に行った?夏の陽射しは幻のよう。美しい風景は儚い。命のリズムは静寂に奏でられる。流浪の旅人は帰りたくないと電話越しに言った。戦いはまだ終わっていない、と。鳥の群れが港で羽を休める中、あなたには寒空を飛んでいてほしい。いつの間にか押し付けられた願いは星と共に沈んだ。

 

 2014年11月16日3:15

 ダーツは的に投げられた。ただいま、と言わんばかりにダーツは的へと吸い寄せられていくのが理想なのだが。がっかりした僕は、お酒は飲めないので代わりにブラックコーヒーを飲んだ。だから何だと君は言うかもしれないが、僕にとってそれは重要なことだった、ということにしたかった。退屈が懐かしい。

 

 2014年11月21日6:48

 「おとうさん、ぶどうあいすはたべないでね」幼児期に書き残していた殆どラクガキ同然の手紙が我が家には今でもある。それを見る度に私は父に葡萄アイスを食べられたことを思い出すのだ。今となってはもう葡萄アイスを食べる機会なんて滅多にないし、別に欲しいとも思わない。紫色が好きだったのかな。

 

 2014年11月24日5:52

 黄色い落ち葉を踏めばポテトチップスを食べる時みたいなサクサクした音がそこら中に舞い散った。虫に食われた枯れ葉の心は出来損ないのドーナツのよう。冬の桜の樹の下でお菓子は見えないダンスを踊っている。気づかれないで済むならば、その方がいいと笑って。風が吹いた。誰かがこちらを振り向いた。

 

 2014年11月27日7:02

 静かなる暴発は、言葉の城の内壁を崩しただけなので、彼彼女らの口にする「愛している」はより真実味を帯びて伝わるのだった。美しい外壁を艶やかに着こなし残したままに。しかし、冬の風は「それでいい」と煽るように吹き荒ぶ。星は寒さを凌いで皆の願いをせっせと叶えている。月は暫く見て見ぬ振り。

 

 2014年11月29日1:52

 さささいな出来事で自分を保てなくなる。きっとあの人を心の中に取り込んでしまったからだろう。眩し過ぎる冬の日差しを浴びると、全てを見透かされてしまいそうな余りに憎んでしまう。たとえその光路が私をしああわせに導くものだとしても。辿らないでいるうちに、また夜が訪れては星が泣く。愛して!

 

 2014年11月30日4:16

 今まで生きてきた足跡を必死になって残してきたはずなのに、振り返るとそこには何も見当たらなかった。海風が砂地を均したのか、それとも始めから浜辺など歩いていなかったのか。跪いた傍をやどかりは通らなかった。置き去りにされた貝殻のみがそこにはあった。溶けかけたそれは虚無に夢を埋めていた。

 

 2014年12月11日5:15

 ピアノの音色だけが現実を置き去りにしてくれる。本当に。もう何もしたくない。そう誰かが弱音を吐いたことにした。強がらなくてもいいんだよ。拠り所のない光に追いつこう追い抜こうと流れ続けるメロディは、気づけば周りに誰もいない譜面の向こうまで届いてしまった。隠したかった本音が踊っている。

 

 2014年12月12日3:55

 こんな夢を見た。朝、起きてシャワーを浴び、ご飯を食べて外へ。いつもの道を駅まで歩き、定時の電車に揺られながら気がつけば、うとうと。そこで授業中に居眠りする夢へ入り、さらにその中では毛布に包まり仔犬と戯れていた所へ他人とは思えない他人からのメールが。中身は空だった。青い鳥が瞬いた。

詩「♀ok♂nna」

 

 締めつけられている

 今、私の胸は締めつけられている

 太陽は優しく そよ風は心地良く

 私を取り巻く 平凡でありきたりな幸福

 皆の目にはそう映る

 そう映るように私が振舞っているから

 そう振舞うように誰かに強いられているから

 誰に? もしかしたらそれは

 人間ではないかもしれない

 そんな詩を何処かで読んだよ

 形而上学のカタストロフィ

 そのことに私が胸を痛めていると

 近所の精神科医は得意気に指摘してくる

 例えばそういうことにして 

 冗談じゃない! バカな大人は

 しばしば難解な言葉を使って

 執拗に私たちをカテゴライズしたがる

 そう言い返してやりたかった

 抽象は捨象を伴う カタカナは残酷だ

 

 締めつけられている

 今、私の胸は締めつけられている

 私というジレンマに 自由という束縛に

 ボーボワールは本当にサルトルに愛されて

 女になったの?

 私には誰かに愛される自信もないし 誰かを愛せる自信もないし その何方の自由もない気がするし そうかと言ってレズでもないし バイでもないし 勿論オンナでもないし だけど 処ジョだし そんな暴露したくなんかないし でも紫外線は浴びたくないし そもそも何にもなれていないし 要するにニートと言っても過言ではないし バカにされても仕方のない人間だし でも紫外線は浴びたくないし 唐突に非実用的ナ閃キガ頭ヲ擡ゲル死ネッ!

 人々の想像を遥かに超える産物を創りなさい

 私の欲求に塗れた無意識がそう私に囁きかける

 バカにしないで・・・ そんな事すれば

 私も都合のイイ芸術家集団の仲間入りだネ!

 そんなら周囲に迎合した態度を取りなさい

 答えに窮した私は堪らず外に飛び出したそう

 私は誰かに話しかけられるにも関わらず、話しかけようとはしなかった

 私は誰かに話しかけられたにも関わらず、話し続けようとはしなかった

 私が自由の刑に処せられるのに大した犠牲は生まれなかった

 私が言葉を失うまでに大した時間はかからなかった

 

 締めつけられている

 今、私の胸は締めつけられている

 夢という名のファシズム

 偽善という衣を被った甘えに

 何だか肌寒くなってきた こんな時、

 私の血管はか細く泣いているみたい

 私の身体に含まれた微かなぬくもりを逃がすまいとしくしくと泣いている

 その事実を私は未だ実感できていないということにする、絶っったい!

 その結果、私は独り ぬくもりは煙に巻かれて

 遠いとおい上空へとうすーーく広がっていく

 そうして気づかぬ間に求める熱を昇華させてゆくらしいよ

   

 太陽は嘘つきだってさ

 

 巧妙に私達に与えるフリをして

 実は私たちから吸いとっていく

 傲慢な思想を許してはいけない

 それは永遠に裡にとどめておくべきかと

 雀がそれに同意するかの如く跳びはねる チュンチュンと鳴く そして羽ばたく チュンチュンと・・・ 羽ばたくぅ? ちゃうちゃう

 雀はただ気まぐれにそよ風に流されているだけで そのそよ風すらも気まぐれで チュンチュンとも雀は鳴かないで ちゃうちゃうとも私は言わない

 

 決して、言わないい

 

 締めつけられている

 今、私の胸は締めつけられている

 コンビニエンスな展開に

 俗物を摘まむ震えた指先に

 私はこの先一生詩になり得ない言葉を

 B4の白紙に綴る 私の歴史なんて何もないのに

 締めつけられている

 私は私の名前に

 私は私の性別に

 私は私のやりたい事に

 私は私の大好きな人に

 

 それでも、私は、

 私はの限り私の字架を咥える

 

 私は、

 締めつけられているんじゃないっ!

 

 私はっ、

 私の胸を

 私の十で

 

 締めつけているんだ

 

 締メツケテイルンダ

 

 締 MetsuketeIru、♂nna